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コラム 第9回(2009.06.09

 

定款の英訳について(1)

 

さて、これから2回にわたって、企業の定款の翻訳(英訳)について解説したい。定款と登記簿は、海外に現地法人を設立するなど、様々な場合に必要になる。公式文書だから翻訳はプロに依頼するのが普通だとしても、ヘンなものを出すわけにはいかないので、ある程度のポイントは押さえておきたい――そう考えている企業の担当者の方に、多少ともお役に立てば幸いである。

 

秘密保持契約のときと同様、翻訳の専門家を対象にしたものではないので、すでに実務に精通しているかたには物足りない内容であるかもしれない。その点をあらかじめお断りしておく。

 

さて定款は、会社のガバナンスの形態によっても異なるが、ふつう次の6つの章を含んでいる。

 

 第1章 総則 (General Provisions)

 第2章 株式 (Shares)

 第3章 株主総会 (General Meeting of Shareholders)

 第4章 取締役及び取締役会 Directors and Board of Directors

 第5章 監査役及び監査役会 Corporate Auditors and Board of Corporate Auditors

 第6章 計算 Accounts

 

それぞれの章にどんなことが書いてあるのか、それをどう訳すのか、全部を解説したいところだが、そうすると飯の種がなくなってしまうので、あえて2回のみとしている。その点、ご了承願いたい。最初の2章から主な条項を抜き出して訳していくことにする。どの会社にも共通する内容なので、応用度は高いはずだ。

 

第1章は「総則」。ここには通常、会社の商号、目的、本店所在地、機関、公告方法などが含まれる。短い文章ばかりなので全部訳しておこう。

 

[和文]

 

第1条(商号)

当会社の商号は、ABC株式会社とし、英文では、ABC Co., Ltd.と表示する。

 

定款の書き出しはいつでもこの「商号」(英語ではtrade name)で始まる。そのまま訳して、The name of the Company shall be “ABC Kabushiki Kaisha” and in English it shall be “ABC Co., Ltd.”でよい。短くするのであれば、The name of the Company shall be “ABC Kabushiki Kaisha,” or “ABC Co., Ltd.” in English.とすればよい。The Company shall be called…The name of the Company shall be written…という表現はあまり見かけない。

 

なお第1条(商号)はArticle 1 (Trade Name)とするが、本文の書き出しはThe trade name of the Company shall be…ではなく、たんにThe name of the Company…とするのが一般的だ。理由は知らない。

 

[英訳]

 

Article 1 (Trade Name)

The name of the Company shall be “ABC Kabushiki Kaisha,” or “ABC Co., Ltd.” in English.

 

続いて会社の「目的」。

 

[和文]

第2条(目的)

当会社は、次の事業を営むことを目的とする。

(1) ・・・・・・

(2) ・・・・・・

(3) ・・・・・・

(4) ・・・・・・

(5) ・・・・・・

(6) 前各号に附帯関連する一切の事業

 

ここは必ず、「当会社は、次の事業を営むことを目的とする。」で始まり、以下、目的となる事項がずらりと並ぶ。特に調べたことはないが、多いところでは30近くあるだろう。当然のことながらここに並ぶ事項は会社によって異なるが、最後の1つは必ず「前各号に附帯する一切の事業」「前各号に附帯関連する一切の事業」といった表現で結ばれている。便利で隙のない表現だといつも思う。

 

前各号に附帯する一切の事業であればAny and all businesses incidental to each of the foregoing.でよい。附帯関連するであればincidental or relating to…だ。下に掲載した試訳は少し表現を変えてあるが、どれでも問題ないだろう。

 

さかのぼるが、当会社は次の事業を営むことを目的とする の訳はThe purpose of the Company shall be to engage in the following businesses:が定番だ。

 

[英訳]

 

Articles 2 (Purpose)

The purpose of the Company shall be to engage in the following businesses:

(1) ・・・・・・

(2) ・・・・・・

(3) ・・・・・・

(4) ・・・・・・

(5) ・・・・・・

(6)  Any other business incidental or relating to the businesses referred to in any of the foregoing items.

 

次は「本店所在地」。

 

[和文]

 

第3条(本店の所在地)

当会社は、本店を横浜市に置く。

 

所在地はlocation。「当会社は、本店を〜に置く」は「当会社の本店は〜に所在する」と読み替えてから訳すとよい。

 

[英訳]

 

Article 3 (Location of Head Office)

The head office of the Company shall be located in Yokohama City.

 

次は「機関」。

 

[和文]

 

第4条(機関)

当会社は、株主総会および取締役のほか、次の機関を置く。

(1)取締役会

(2)監査役

(3)監査役会

(4)会計監査人

 

どんな機関を置くかは会社により異なる(例えば委員会設置会社など)が、上の6つはその代表的なものだといってよい。当会社は次の機関を置くThe Company shall have the following organs.でよい。株主総会はGeneral Shareholders’ MeetingまたはGeneral Meeting of Shareholdersとするのが一般的。通常総会であればOrdinary、臨時総会ならExtraordinaryをつける。

 

取締役会はBoard of Directors、監査役会はBoard of Corporate Auditorsだ。監査役にはStatutory Auditorという言い方もあるが、最近はCorporate Auditorが一般的なようだ。

 

[英訳]

 

Article 4 (Organs)

The Company shall have the following organs in addition to the General Meeting of Shareholders and Directors:

(1) Board of Directors;

(2) Corporate Auditors;

(3) Board of Corporate Auditors; and

(4) Accounting Auditors.

 

さて、総則の最後は「公告の方法」である。

 

[和文]

 

第5条(公告方法)

当会社の公告は、電子公告によりこれを行う。ただし、電子公告によることができない事故その他のやむを得ない事由が生じたときは、日本経済新聞に掲載する方法により行う。

 

「公告は、電子公告によりこれを行う」や「日本経済新聞に掲載する方法により行う」という表現はかなり回りくどい。それぞれ、「公告は、電子公告とする」「日本経済新聞に掲載する」でよいと思う。実際、そのような表現にしている会社もあるようだ。

 

公告はpublic notice公告は、電子公告により行う は、公告を主語にするとPublic notices of the Company shall be issued electronically、当会社を主語にするとThe Company shall issue its public notices electronicallyとなる。

 

但し書きは、その前の文をセミコロン(;)で切りprovided, however,…と続けるのが普通。英語を書き慣れているようでかっこいい。

 

電子公告によることができない事故その他のやむを得ない事由が生じたときは の部分はいろいろな表現が可能だ。事故その他のやむをえない事由 accidents or other unavoidable reasonsでよい。そのまま直訳するとif the Company is unable to issue its public notices electronically due to an accident or any other unavoidable reasonsとなる。それで問題ないと思う。下の試訳では、参考までにaccidents or other unavoidable reasonsを主語にして訳しておく。

 

[英訳]

 

Article 5 (Method of Public Notice)

The Company shall issue its public notices electronically; provided, however, that if accidents or other unavoidable reasons prevent the Company from issuing public notices electronically, the Company shall issue the public notice in the Nihon Keizai Shimbun.

 

 

免責:本コラムの中の英訳はあくまで参考目的に記載しています。読者がこの英訳を実務に転用、流用などして被った被害に関して著者は一切責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 

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