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コラム 第6回(2008.10.30


秘密保持契約書の英訳について(4)


さて、前回で秘密情報の定義が終わったので、もう一つの核心部分である「秘密保持義務」を訳すことにしよう。


[和文]

3条(秘密保持義務)

1. 受領当事者は、秘密情報を本件取引の遂行以外の目的に使用してはならない。


まず第1項から。ここは「使用目的の制限」である。「本件取引の遂行以外の目的に使用してはならない」の「〜以外の」はother thanを使う。「本件取引を遂行する」はconduct the Transactionでよい。


[英訳]

Article 3 (Confidentiality Obligations)

1. The Receiving Party shall not use Confidential Information for any purpose other than conducting the Transaction.


なお、この第1項の義務は、「受領当事者は秘密情報を本件取引の遂行のためのみに使用するものとし、それ以外の目的のために使用してはならない」と言い換えても同じなので、The Receiving Party shall use Confidential Information solely for the purpose of conducting the Transaction and shall not use it for any other purpose.と訳すこともできる。


[和文]

2. 受領当事者は、本件取引のために秘密情報を知る必要がある自己の役員及び従業員に対してのみ秘密情報を開示し、開示当事者より事前の書面による承諾を得ることなくして、第三者に秘密情報を開示または漏洩してはならない。


2項で述べられている義務は、まず「知る必要のある者にのみ開示する」こと、そして「開示当事者からの事前の書面による承認なくして開示してはならない」ことの2点である。


1点目の「受領当事者は、本件取引のために秘密情報を知る必要がある自己の役員及び従業員に対してのみ秘密情報を開示し」に特に難しいところはなく、そのまま素直に訳せばよい。The Receiving Party shall disclose Confidential Information only to its officers and employees who need to know the Confidential Information for the Transaction.くらいでよいだろう。なお「役員」はいろいろな訳が可能だが、ここではofficerとしておく。


2点目の義務「開示当事者より事前の書面による承諾を得ることなくして、第三者に秘密情報を開示または漏洩してはならない」の中では、「事前の書面による承認」というのが契約書に頻出するフレーズで、prior(事前の)written(書面による)approval(承認)の3つの単語を連ねる。「事前の書面による通知」ならprior written noticeだ。なお「漏洩する」はdivulge


[英訳]

2. The Receiving Party shall disclose Confidential Information only to its officers and employees who need to know the Confidential Information for the Transaction, and shall not disclose or divulge any Confidential Information to any third party unless it obtains the prior written approval from the Disclosing Party.


続いて第3項。


[和文]

3. 受領当事者が開示当事者の事前の書面による承諾を得て秘密情報を第三者に開示する場合には、受領当事者は第三者に対し本契約と同等の秘密保持義務を負わせるものとし、かかる義務の履行について、当該第三者と連帯して一切の責任を負うものとする。


3項は第2項の補足で、事前承認を得て第三者に開示する場合の義務を規定している。


受領当事者が開示当事者の事前の書面による承諾を得て秘密情報を第三者に開示する場合には」は第2項の英訳がほぼそのまま使える。「〜の場合には」はIn caseを使ってもよいし、たんにWhenでもよい。


受領当事者は第三者に〜の義務を負わせる」は学校の英作文で覚えた使役動詞(makeまたはhave +目的語+原型)を使ってthe Receiving Party shall have the third party bear the same obligation as…でもよいし、ensure(〜を確実にする、〜を確保する)という動詞を使ってthe Receiving Party shall ensure that the third party bears the same obligations as…としてもよい。


第三者と連帯して」はjointly with the third party。「責任を負う」はassume responsibility。「一切の責任を負う」は「完全な」の意味のfullをつけてassume full responsibilityと訳す。


[英訳]

3. When the Receiving Party discloses Confidential Information to a third party after obtaining the prior written approval from the Disclosing Party, the Receiving Party shall ensure that the third party bears the same obligations of confidentiality as those of this Agreement, and shall assume full responsibility jointly with the third party for the performance of the obligations.


最後に第4項。


[和文]

4. 受領当事者は、特に必要な場合のみ秘密情報の複写・複製をおこなうものとし、みだりにこれを行ってはならない。また複写・複製された秘密情報は、秘密情報として取り扱わなければならない。


特に必要な場合」というのは「どうしても必要な場合」という意味と解釈できるので、when (it is) absolutely necessaryでよい。「複写する」はcopy、「複製する」はreproduce(名詞はreproduction)だ。「みだりに」は味のある言葉で、漢字にすると「妄りに」である。「妄想」という言葉から想像がつくように「根拠なく」「わけもなく」「正当性なく」といった意味が込められている。without good reasonと訳すことが多い。


ここまでは、原文を「絶対に必要な場合を除き、みだりに秘密情報を複写・複製してはならない」とパラフレーズ(言い換えること)して、shall not copy or reproduce Confidential Information without good reason, except when absolutely necessaryと訳せばよい。


次の「複写・複製された秘密情報は、秘密情報として取り扱わなければならない」は簡単なようだが、そのまま訳すとThe Receiving Party shall handle any copy or reproduction of Confidential Information as Confidential Informationとなり、まだるっこしい感じになる。もともとの日本語がおかしいのかもしれない。「秘密情報を複写・複製した場合には、かかる複写・複製も秘密情報として取り扱わなければならない」とパラフレーズしてから訳すとよいかもしれない。


[英訳]

4. The Receiving Party shall not copy or reproduce Confidential Information without good reason, except when absolutely necessary. If Confidential Information is copied or reproduced, such copy or reproduction shall be treated as Confidential Information.


免責:本コラムの中の英訳はあくまで参考目的に記載しています。読者がこの英訳を実務に転用、流用などして被った被害に関して著者は一切責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。


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